在宅での慢性閉塞性肺疾患のみるべきポイント
慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)は高齢化に伴い、年々増加傾向にあります。
今までは男性の死因の上位に呼吸器疾患というものが多かったですが、最近の調査では女性の社会進出も相まって女性の死因の上位に呼吸器疾患が位置するようになってきています。
しかし、今の若年層はタバコ嫌いが多く、国の政策でも飲食店での完全禁煙化を推進しているため将来的には徐々に少なくなっていくと考えられます。
今回は、呼吸器疾患について在宅での経験を踏まえながら解説していこうと思います。
・呼吸器疾患とは
呼吸器に派生する疾患の総称であり、呼吸器の機能的・器質的障害により呼吸障害を始めとした症状が起こる。
呼吸器は気道とガス交換の場である肺胞で構成されている
上気道は鼻腔、咽頭、喉頭で構成され、下気道は気管、左右の主気管支、葉気管支、区間気管支、亜区間気管支、小葉気管支、終末気管支、肺胞で構成されている
肺胞には毛細血管が網目状に取り巻かれており、肺胞壁を通じて肺胞内空気と毛細血管内の血液の間でガス交換が行われている。
呼吸器疾患の行病体である呼吸困難の原因として、神経・呼吸筋の障害、胸郭・胸腔・胸膜の変化、上気道の障害、下気道及び肺実質の障害、呼吸中枢の障害があげられる
・肺の機能とガス交換障害について
肺の主な機能は空気中の酸素を取り込み、血中の二酸化炭素を排出する器官である
横隔膜・胸郭の動きにより受動的に拡張することで空気を吸い、肺の弾力により排出している
ガス交換障害は酸素の取り込み低下(低酸素血症)と二酸化炭素の排出低下(高炭酸ガス血症)があり、原因として口腔~気管支の障害、肺胞の障害、胸郭の動きの障害がある
・慢性閉塞性肺疾患について
閉塞性肺疾患は気道が狭くなることで息が吐きにくくなり換気効率が低下した状態で主に慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息が有名である
肺気腫は終末細気管支から肺胞壁が拡張、破壊される病変で、拡張状態が続き、末梢気道が虚脱しへいそくするため息が吐き切れない状態になる
慢性気管支炎は痰や咳が毎年3か月以上かつ2年継続している状態を指し、気道壁の肥厚や分泌物の貯留により中枢から末梢気道の狭小化している状態
気管支喘息は気道の慢性炎症により機動過敏性が上昇し、気道が閉塞する状態
・拘束性肺疾患について
拘束性肺疾患とは肺や胸郭が広がりにくく、肺活量が低下した状態で間質性肺炎や肺結核後遺症がある
拘束性肺疾患の原因は肺の間質の障害、胸郭の拡張制限、呼吸筋力低下がある
胸郭の拡張制限は肺実質の減少(肺切除後)、肺がん、肺結核後遺症などがある
呼吸筋力低下は筋萎縮性側索硬化症(ALS)や重症筋無力症などの神経筋疾患がある
・慢性閉塞性肺疾患の病期分類
Ⅰ期:軽度の気流閉塞 FEV1/FCV<70%、%FEV1≧80%
Ⅱ期:中等度の気流閉塞 FEV1/FCV<70%、50%≦%FEV1<80%
Ⅲ期:高度の気流閉塞 FEV1/FCV<70%、30%≦%FEV1<50%
Ⅳ期:極めて高度の気流閉塞 FEV1/FCV<70%、%FEV1<30%
もしくは%FEV1<50%かつ慢性呼吸不全合併
・慢性閉塞性肺疾患の障害像
長期喫煙により炎症性変化や過剰な分泌物、呼気時の胸腔内圧上昇によって末梢気道の閉塞を生じる
空気を吐き出す力が低下し、慢性的な咳嗽や痰、労作時呼吸困難が出現する
徐々に階段昇降や歩行が難しくなり、身辺動作の介助が必要となる
頻回の呼吸によりエネルギー消費が多くなり疲労しやすくなる
・評価方法
呼吸回数:正常が14~20回 頻呼吸が20回以上 徐呼吸が10回以下
呼吸リズム:正常が呼気:吸気が1:2 異常がため息呼吸、過呼吸、閉塞性呼吸、チェーンストークス呼吸、ビオー呼吸
呼吸パターン:正常が腹式呼吸、胸式呼吸 異常がフーバーズサイン(吸気時に胸郭下部の肋骨が正常とは逆に内方へ移動する)、呼吸補助筋の過活動
身体所見:胸郭の変形、体重減少、口すぼめ呼吸、筋力低下、貧血、うつ、骨粗鬆症、虚血性心疾患
・聴診
副雑音は4種類あり、ウィーズ、ロンカイ、ファインクラックル、コースクラックル
ウィーズは「ピーピー」という高い音で痰で気道が大きく閉塞したときや喘息で気管に攣縮が起こった時に発生する音。窓の隙間から風が吹き込んでくるような音
ロンカイは「グォーグォー」という音で気道が部分的に閉塞した時に発生する音。いびきのような音
ファインクラックルは「パリパリ」という乾いた音で無気肺などで虚脱した肺胞が開くときになる音。古いしわしわの風船を膨らませるときになる音
コースクラックルは「ブクブク」という音で、水っぽい痰が貯留しているときに聞こえる音。トロミの水にストローを入れ拭いたときの音
・呼吸困難の分類
息切れの分類には日常生活における息切れの状態を問診で問う間接的評価法と患者自身が息切れの度合いを直接示す直接的評価法がある
間接的評価法にはHugh-Jones分類、MRC scoreがある
直接的評価法には修正ボルグスケールがある
・呼吸リハビリテーション
慢性呼吸器疾患を有する患者は長い経過の中で息切れ(呼吸機能低下)、活動性低下(ADL低下)、うつ状態(精神機能低下)が生じてくる
活動性低下により食欲が低下し、栄養状態の悪化、筋力低下が促進され、労作時の呼吸困難も増悪し、悪循環となる
呼吸リハビリテーションは包括的に行うのが一般的であり、酸素療法、薬物療法、食事療法、運動療法を行っていく。
COPDに対しての運動療法は全身持久力トレーニング、筋力トレーニング、コンディショニング、ADLトレーニングを行うのが一般的とされている
その他の理学療法として、リラクゼーションや呼吸練習、胸郭可動域練習、排痰法の練習がある
運動療法の適応は息切れの慢性呼吸器疾患を有する患者で病状の悪化がないものである
運動時のターゲットSpO2は90%以上であり、以下の中止基準(例)に沿って行う
①修正ボルグスケールが7以上
②自覚症状(息切れ、動悸、疲労、めまい、ふらつき、チアノーゼ)の悪化
③心拍数が年齢別最大心拍数に達した場合
④呼吸数が毎分30回以上となった場合
⑤収縮期血圧が高度に下降した場合、拡張期血圧が高度に上昇した場合
~編集後記~
COPD患者の在宅生活は家族やサービスの協力が不可欠な場合が多いです。特に高齢男性の場合は栄養面の配慮が少なくなり、容易に栄養失調となり、寝返りをするだけでも息切れがするようになったり、起き上がっても息切れがなかなか収まらないことも多々あります。私が勤めているのは訪問看護ステーションなので看護師によるケアを行いつつ理学療法士や作業療法士によるリハビリで活動量を上げていくことが必要になります。しかし、最初は上手く軌道に乗らないことが多いのですが、その原因は食事内容や食事量が不安定だからです。きちんと栄養を摂るという教育なくして運動の結果はでてきません。そのため、固形の食事がとれる人でもドリンクタイプの栄養補給飲料を欠かさず飲んでもらったり、食事回数を増やして量は少なくする工夫を指導しています。
また、病院での理学療法士は重きを置いていない場合がありますが在宅では適切な口腔ケアができているかということも評価するべきポイントだと考えています。口腔内の清潔を保つことで味覚の向上や肺炎予防、その他炎症性疾患にエネルギーを使用しなくていいようになります。在宅で活躍している訪問リハビリの方々の意見を聞かせて頂けたら幸いです。