カラダとリハビリ

理学療法士である管理人が「カラダ」と「リハビリ」について自由気ままに書いていくブログです。

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進行性核上性麻痺を理解する

本日は進行性核上性麻痺(以下:PSP)についてまとめていきます。

私も在宅の世界に来るまでは全く知らない病気でしたが、PSP患者様と接するにあたってまだまだ勉強不足と感じたため知識の整理をここで行おうと思います。

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興味があればご覧ください。

~目次~

  1. PSPはどんな病気なのか
  2. どんな症状があるのか
  3. どのような経過をたどるのか
  4. どのような合併症があるのか
  5. 現在はどんな治療法が行われているのか
  6. 介護やケアの注意点は?
  7. リハビリテーションの方法

1.PSPはどんな病気なのか

 PSPは1963年にアメリカの神経学会で報告された眼球運動麻痺に関わる原因不明の神経変性疾患の一つです。男性では50代後半、女性では60代前半に発症することが多いようです。10万人に5~10人とかなり稀な疾患です。

 

2.どんな症状があるのか

PSPの臨床症状はパーキンソン病に類似した症状や発語障害、嚥下障害、小脳症状とあります。そのほかに、転倒しやすいことや目の動きの障害、認知症など様々な症状があります。

まず、眼球運動障害の特徴ですが、最初に上下方向の動きが悪くなります。PSPの特徴は下方向の動きが特に悪くなるということです。発症後2~3年後に水平方向の動きにも制限が出てきて最終的には全方向へ動くことが無くなります。

進行してくると目の位置が外側にずれることも念頭に置く必要があります。

転びやすい症状はPSPで初期からみられる特徴です。転倒時に手を出して防御する反応が起こらない(平衡反応が無くなっているため)ため顔面や頭部に外傷を負ってしまうことも度々あります。

なぜPSP患者様が度々転んでしまうかというと、まず、認知機能の低下により注意力が低下するということ、パーキンソン病に似た症状のため筋緊張異常が生じ、立位姿勢が非常に不安定であることがあげられます。また、PSP患者様にはもう1つ特徴があり、それは”ロケットサイン”というものです。

ロケットサインとは、普段はじっとして動かないのに、眼を離した瞬間に突発的に行動することを指します。そのため、5分位大丈夫だろうと油断して目を離すと床に転がっていたということはこの病気ではよくあることです。

PSP患者様の認知機能の低下は発症後1~2年後に現れることが多いようです。基本的には状況判断ができず、環境の変化によって対応が異なるということが多いようです。

また、PSP患者様に特徴的なのが手で何かを掴むということや指示されていないのに相手の言動を真似るということがあります。

基本的にその場のコミュニケーションはゆっくりであれば可能です。しかし、記憶能力も低下するため印象に残らないと毎回初めましてになってしまうでしょう。

 

3.どのような経過をたどるのか

症状は緩やかに進行し、平均2.7ヶ月で車椅子が必要となり、約5年で臥床状態、平均で7年でなくなるというのが最近の調査結果のようです。しかし、個人差があり10年以上の経過の方もいます。

死因の多くは肺炎で嚥下障害が進行するに応じてその後に症状も進行する傾向にあるようです。

 

4.どんな合併症があるのか

合併症の中で最も多いのは肺炎で、転倒、骨折が多いようです。また、医療処置で多いものは吸引、経管栄養、尿道カテーテル、気管切開が施行されているようです。

 

5.現在はどんな治療法が行われているのか

現在確立されている治療方法はありません。しかし、PSPに随伴する個別の症状(動作緩慢、筋緊張亢進)に関してはパーキンソン病治療薬が用いられることがあります。

 

6.介護やケアの注意点は?

まず、ご家族様にしっかりと理解してもらいたいことはこの病気が進行するということです。病気というのは基本的に良くなったり、悪くなったりということを繰り返すものですが、この病気に関しては徐々に下がっていくことは間違いありません。

そのため、ご家族様がご本人様の状況に合わせた行動をとる必要があります。例えば、嚥下障害が出てきているのに、まだトロミ剤は必要ないと言ってみたり、何回も転倒してるのに車椅子は必要ないと言ってみたり...この病気はご家族様の理解なしにケアは難しいです。

実際の病期ごとのケア方法は担当の訪問している看護師に聞いてもらうとして、ここではざっくりとした話に留めます。

転倒予防についてです。転倒しやすいのは歩き出し、方向転換に多いです。立ち上がりが不安定な方は立ち上がる時に転ぶ可能性もありますし、人それぞれです。

転倒予防しそうな場所に手すりを付けたり、床と天井をつっぱった棒(ベストポジションバー)を付けたり工夫が必要です。車椅子の方はロケットサインがあるため座っている間は机にしっかりつけて置いたり、安全のためお腹周りにシートベルト様の安全ベルトを付けてみたりする必要があります。

また、排泄中や入浴中も基本的には見守りが必要です。見守りが難しい場合にはオムツ内排泄として定時に交換という方法もあるみたいですが尿路感染の危険もあるため担当看護師と相談の上行って下さい。

 

7.リハビリテーションの方法

リハビリテーションの方法ですが、基本的な方針は悪くならないように各機能を維持することが主な目的です。

PSP患者様一人一人に応じてやるべき優先順位が異なると思いますので担当の理学療法士作業療法士言語聴覚士にご相談ください。

ここでは、やや重症なPSP患者様の理学療法について書いていきたいと思います。

基本的な方針は残存機能を維持して介護量を軽減していくこととご家族様に介助方法を伝達することが訪問の目的となります。

 

理学療法士としてできることは感覚を最大限使用した姿勢によるリラクゼーションで、筋緊張を最大限緩和して過ごしやすい車椅子での姿勢を作ることだと考えています。

自動運動も難しいため基本的に他動運動で実施し、体幹の筋緊張を中心に緩和していきます。PSP患者様も左右非対称な筋緊張を呈しているため体幹の側屈や回旋が生じてしまいます。その体幹の側屈や回旋が何によって引き起こされているのかを考えることが理学療法士の専門性が発揮できる部分だと思います。

体幹の筋緊張を緩和することで座位姿勢で側屈と回旋が見られていたものがほぼ見られなくなり、上肢や下肢に波及していた筋緊張も緩和されました。

これは自分なりの仮説なのですが、嚥下障害がひどくなる原因として頸部後屈があります。人間は上を向いて水を飲むことは不可能です。

頸部後屈を緩和できれば嚥下障害を起こす可能性は軽減し、肺炎を起こす可能性も軽減できるのではないかと考えています。

あくまでも個人的な可能性を提示しているので他の症例でも当てはまるかはわかりませんが、今のところ誤嚥は起こっていないみたいなので継続して頸部後屈の緩和を行っていけたらと考えています。

 

PSPには家族の会というものがあります。興味があればどうぞ。

pspcbdjapan.org

 

参考にした文献はこちらです。興味があったら是非読んでみてください。

~編集後記~

色々な研究が進んできていますが未だに解明できていないことばかりの病気ですが、わかっている症状や予後を理解しておくことは非常に大切なことだと考えています。

特に、難病であるこの病気は病院ではなく、在宅で療養することが多いため訪問看護ステーションに従事する者として外せない病気だと認識しています。

全国にどれくらいのPSP患者様がいるかわかりませんが、その方とその方のご家族様の介護負担が軽減できるように地域の専門職は日々勉強する必要があります。

病院で最先端の治療法を学ぶことも充実していましたが、地域に出て疾患の基本的なことから一から学ぶことも経験年数が浅いうちにできて非常に充実していると感じています。

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